インターネットと高エネルギー研究
渡瀬芳行 理学博士
ビデオ挨拶 インターネットと高エネルギー研究
 皆さんこんにちは。高エネルギ−加速器研究機構、計算科学センタ−の渡瀬と申し ます。つくばにある私たちの研究所は、電子や陽子を高いエネルギーにまで加速する 大型の加速器を, あたかも顕微鏡にように使って、タンパク質の構造解析から、素粒 子物理学までの研究をしている所です。中でも、素粒子や原子核物理の研究は、高エ ネルギー物理学といわれています。この研究には、大型の粒子加速器が必要なため、 世界でも限られた数の研究所でしか実験ができません。世界の研究者は、加速器のあ る研究所に出かけて行って、国際的な共同実験チ−ムを作って研究しています。です から、自分の研究所などに帰っても、実験デ−タの解析や相互に情報交換をすること が必要です。このために、1980年ころより、高エネルギ−物理ネット(High Energy Physics Network: HEPnet)として、世界的なネットワーク作りが行われてき ました。当時は無論、電子メ−ルやファイル転送などパソコン通信の時代でありまし た。

 しかし、80年代中頃になって、アメリカとヨ−ロッパの2個所で、世界中の研究者が参加するような超大型の加速器建設計画が始まりました。 そのための情報の交換は単にメッセ−ジの交換などではなく、図面とか書類の交 換ばかりか、テレビ会議などを使う程、綿密に建設計画を進めなければなりません。 そんな頃、ネットワ−クをもっと有効に使った情報共有のひとつとして、World Wide Webがスイスにあるヨ−ロッパ素粒子物理学研究所のバーナースリーさんを中 心としたチ−ムが開発しました。当時はまだ、極く初歩的であり、パソコン通信の域 を出ないもののような印象を受けました。

 私たちの研究所が、日本で最初のWebサ−バを立ち上げたのは、1992年の 秋です。その頃、世界には十数ヶ所程度のWebサーバしかありませんでした。それ から2,3年の間に、想像もつかないようなスピ−ドで発展普及し、現在では数えき れない程の数になっているでしょう。これは全くの想像外です。この頃の事情は森田 さんの話に譲るとして、私達の研究には、今後もネットワ−クの利用は必須のもので あることには変わりません。現在は、Staticな情報発信とそれの受信が主になってい ますが、いずれ、ネットワ−クのスピ−ドが現在の100−1000倍となると予想 されます。そのよな際には、ネットワ−クは実験装置の一部となり、世界的に分散し た研究者が24時間、交代で実験装置を制御し、実験をすることになり、まさにグロ −バルラボラトリ−の誕生と言えます。

 現在インタ−ネットにおけるWebの利用は、社会の基幹的なインフラストラクチ ャ−になっています。その最初の発明は、高エネルギ−物理という基礎科学の研究の 現場から出てきたものでありますが、国際的な共同研究という研究スタイルが、世界 の社会的需要の先取りをしていたことになリます。来世紀には、日本でも大型の加速 器計画が検討されており、その研究からも何か新しい技術や応用手法が発明されるで しょう。このように、基礎科学はその学問的な成果の重要さは勿論ですが、それを達 成しようとする研究者の情熱が今までになかった何か新しいものを生み出すものだと 思います。
インターネットが研究の分野ばかりでなく、教育や経済社会に今後も有効に使われ ることを期待します。