森田洋平 理学博士

 インターネットが変えた社会

 今から振り返ると、Tim Berners-Lee博士の先見性は本当に素晴らしかったと 思います。WWWの登場以前とそれ以降とでは、ネットワークの使い方がまったく 違うのです。かつて紙(パピルス)の発明が人類の歴史を大きく変えた ように、WWWはネットワーク上の情報の流れ方をすっかり変えてしまいました。

 東西冷戦の終結をもたらした原因の一つに衛星テレビ放送などの情報通信機器の 発達があげられていますが、私はWWWとインターネットも、これからの世界の 情報通信の発達に大きく貢献していくと考えています。

 1997年にベルリンで開かれた国際会議に出席したとき、私は東ベルリンの市街を 歩いていて、建物の壁に今もまだ第二次大戦の時の機関銃の弾痕が残っているの を見かけました。
半世紀の時を隔てて今も生々しく残る戦争の爪痕を見ながら、第二次大戦や その後、東西ドイツが巻き込まれた東西冷戦の歴史について想いを巡らせて いるとき、私の目の前を一台のトラックが通り過ぎました。そのトラックは アメリカの宅配便会社のもので、その荷台には

http://ups.com/

と書かれていました。

 誕生からほんの数年で、世界の情報の流れを変えたWWW。東ベルリンの 市街地を走るアメリカの会社のトラックにURLが描かれ、世界中のどこからでも、 インターネットでその情報に直接アクセスすることができる、そのあまりにも めまぐるしい情報の流れの速度と、歴史の流れの重みとのギャップに、私は めまいのような感動を覚えました。

 今、日本でも、インターネットを使った犯罪や不正利用の問題が深刻になりつつ あります。情報やネットワークは使い方次第で毒にも薬にもなります。
 インターネットは、誰でも、必要な情報を、必要とする人々に、瞬時に伝えること ができる力を持っています。その力の持つ意味を正しく理解し、正しく使えば、 世界中の人々がお互いをよりよく理解し合える社会を築くことも可能なはずです。 一つだけ確かなことは、世界はもうインターネットが無かった時代には後戻り できないことです。私もネットワーク社会の一員として、これからも インターネットの正しい使い方を模索していきたいと考えています。